雑記帳

私、渋谷次郎が調べたことや考えたことを書き留めておくためのブログです。

搭乗前PCR検査:外国人だけを対象にした水際作戦と新型コロナ以後の国際線利用の在り方

■9月より国内居住の外国の再入国を解禁

政府の政策会議である「新型コロナウイルス感染症対策本部」では8月28日、水際対策の変更点として9月から国内に居住する外国が新たに出国した場合の再入国を認めることにした。ただし「追加的な防疫措置として」滞在先で出国前の72時間以内にPCR検査をして陰性の証明書を要求すると付け加えて発表した。

新型コロナウイルス感染症宅策本部議事概要(第42回, 2020年8月28日)

 

■事前検査の要件は差別的なハードルではないのか

かりに滞在先がその外国人の母国であるとしても、いったい症状もない人がPCR検査を受けられるものだろうか? しかも出国前72時間以内に受けた検査じゃないといけないということで、そんなに短時間に検査結果が得られて証明書を書いてもらえるものだろうか? 日本国でもなかなかPCR検査が受けられないというのに、これは単なる嫌がらせ、あるいは事実上の再入国拒否の続行じゃないのかと受け止める人がいても不思議ではないだろう。

 ■外国人記者の質問を小馬鹿にした茂木外相

そこで同日、記者会見に臨んだ茂木俊充外相に、国内の英字紙Japan Timesのポーランド系記者大住マグダレナ記者が「新たな規制の科学的な根拠は?」と日本語で質問したところ、大臣は「What do you mean by “Scientific”?」と英語で切り返した挙句になにも応えずに「出入国管理の問題ですから、出入国管理庁にお尋ねください。お分かりいただけましたか。日本語、分かっていただけましたか?」と小ばかにした対応をしてみせたものだから、余計に不信は広がった。

茂木外相、外国出身の記者に「日本語分かっていただけますか?」会見のやりとりに「差別的」などとの批判広がる(BuzzFeed News 2020年9月4日)

 

■入国管理局は事前登録を追加要求

その入国管理局が9月1日に公表した実施要領では、さらに要件が加わっていて、出国前の外国人にオンライン登録も要求する内容となっていた。これによりすでに出国してしまっていて現在は海外に滞在している外国人の再入国禁止は解除されないことが分かった。じつは、対策本部会議に提出されていた資料には、彼らも今回の解除の対象とされていたのにである。一連の会議資料によれば、今回の入国制限の変更は、国家安全保障局の発案であることが分かるから、取材先は北村滋局長に尋ねるのがいちばん良かっただろう。この点でも茂木外相の応答は不適切であった。

本邦滞在中の在留資格保持者の再入国予定の申出について(出入国在留管理庁, 2020年9月)

資料3 内閣官房(国家安全保障局)提出資料(新型コロナウイルス感染症対策本部, 第42回議事次第, 2020年8月28日)

 

そもそも、出国前に事前登録を要求し、滞在国からの出発前にPCR検査を求めるという着想はいったいどこから来たのだろう。ちょっと時間が経ったところで落ち着いて考えてみると、防疫の観点からこの着想はあながち不合理なものでもない。

 

■航空機業界は搭乗前のPCR検査を推奨

飛行機で成田や関空といった国内の空港に到着したところで検査をしても、これまでのように閑散とした機内ならともかく、それなりに乗客がいるようなケースを想定すれば、機内での感染が広がってしまう可能性がかなり高い。これではいかにも具合は悪い。航空業界の世界的なとりまとめ団体であるICOCAやIATAといったウェブサイトを覗いてみれば、やはり航空機への搭乗前の検査を推奨している。航空業界からみれば、カラに近い飛行機を飛ばすのではビジネスにならないのだから当然のことだろう。

Criteria for COVID-19 Testing in the Air Travel Process (The International Air Transport Association(IATA), プレスリリース, 2020年6月16日)

 

 ■観光に頼る諸国ですでにスタート

たとえば、観光収入に頼っているギリシャでは、観光客の誘致策としながら搭乗前のPCR検査を要件としながら夏季バカンスシーズンの後半にあたる8月中旬に入国規制を解いている。次の旅行サイトの記事によれば、ギリシャのこの要件は自国民も含めてのことで、外国人に限ってのことではないという。同様の規制については旅行サイトをサーフィンするとフランスやシンガポールでもという記事がいくつも出てくる。

Many Countries Now Require Negative Covid-19 Test Results(ftn News 2020年7月29日)

 

要するに国際的な旅客運輸業界から見ると、訪問国への到着時ではなく、出発前にPCR検査を済ませてから航空機へ搭乗するというスタイルが、新型コロナ以後の旅行で定番になる可能性がかなり高くなってきているということが言えそうなのだ。もちろん、その対象は外国人に限らないし、すべての人が対象でなければ安心安全な旅にならないのは言うまでもない。

■日本人にも必要になる出発前検査

新型コロナが流行していたので私もずいぶんと引きこもった生活を送ってきたせいか、今回の外国人の再入国解禁と同時に導入された出発前の検査に違和感を強く覚えた。しかし、こうして見ると実はそれこそ新型コロナ以後の定番になりそうな策と言えそうだ。そして、もうひとつ、日本を出国する前に入国管理局に届け出て事前登録することがなぜ必要かについては、おそらく再入国を拒否したときにクレームがつかないようにするためだと思われるが、お人よしに過ぎると言われるのを覚悟してあえていえば、混乱しがちな情報がきちんと伝わっているかどうかを確かめるためにあえて課したのだと解釈することもできなくもない。

 

「だったら初めからそう言え!」

この一言に尽きそうな気もする。そしてせめてもうひとつ

「日本人の再入国にも出発前検査は当然のこととして求めたい」

ぐらいは付け加える必要があるだろう。

 

いくら日本人の入国を拒否することができないということだとしても、その言葉が出ないのはどうしたことか。水際対策というとき、あたかも対象は外国人だけだと決めつけたままにするから非科学的なのである。外国人を差別的に扱うような言動が、まるでかっこいいことだと思っているような気がしてならないのは、先のそして今回も続投の外務大臣だけとは思えないことがとても悲しい。