スペイン語圏の第一姓と第二姓
■メッシの本名は?
サッカーファンは、海外選手の名前には無頓着だ。マラドーナだろうがメッシだろうが、どんなに有名な選手であろうとも、正式なフルネームを見たことがある方はほとんどいないだろう。
アルゼンチン人であるメッシのフルネームは、リオネル・アンドレス・メッシ・クッシッティーニ(Lionel Andrés Messi Cuccittini)という。最初の二つが名前。残りの二つが姓にあたる。
二つの名前のうち、最初の名前のリオネルは両親が付けた名前で、アンドレスのような2つ目の名前は教会でもらう洗礼名とか、名づけ親的な方などが付けた名前とか、家族以外が付けた名前である。日常的には省略されがちな名前だが、教会にきちんと通う家庭に育ったことを暗に示しているようなところもある。
■二つの姓
二つある姓のうち、最初のメッシは父親から受け継いだ姓だ。第一姓と呼ばれることもある。最後のクッシティーニは母方の姓で第二姓と呼ばれることもある。このようにスペイン語圏の方々の姓は2つ並んでいることが多い。
他方でマラドーナの場合はどうか。正式名はディエゴ・アルマンド・マラドーナ(Diego Armando Maradona)で、姓はマラドーナの一つしかない。このような場合は両親のあいだの関係性や出生にわけありの事情がありそうだということになる。
もっともマラドーナの両親はたびたびメディアに登場してきたし、そのたびに仲の良い結束の固い家族だと伝えられている。なぜ彼の第二姓がないのかを説明する正確な記述を私はまだ見たことがない。
このように、スペイン語圏の姓はこのように父方の姓と母方の姓の両方を受け継ぐ形になっている。これは男子でも女子でも同じことなので、兄弟姉妹の姓は、父方の姓Cと母方の姓Dを併記する形になり、皆同一となることはもうおわかりだろう。
■婚姻と姓の変更
スペイン語圏では伝統的に男性の姓は結婚しても変わらず、女性は婚姻とともに母親の姓である第二姓を棄てる。そしてたいていは、相手の男性の第一姓を第二姓として名乗ることになる。
男女平等という観点からことのことを見ると、生まれたときに母親から引き継いだ第二姓はまったく粗末に扱われてしまうことになる。男性の第2姓は実の母の姓から引き継ぎ生涯を通じてずっと使われるのだが、女性の場合は母から継承された第2姓は婚姻後に消えてしまうのである。
■2世代で途絶える母系姓
そして、結婚した若いカップルに子どもができると、父系の姓の優位性はますますはっきり表れる。父親の第一姓が子ども第一姓となり、母親の第一姓が子どもの第2姓になる。核家族の単位だけで考えるといっけん平等に見えるこのしくみだが、さらに一世代前にさかのぼって考えると、結局のところは父方の祖父、母方の祖父の第一姓を残したにすぎない。両方の祖母から引き継がれる女系の姓はまった引き継がれることなくすっかり根絶やしになってしまうのである