雑記帳

私、渋谷次郎が調べたことや考えたことを書き留めておくためのブログです。

さいたま市の750人定員増は、1歳児の募集園児数を35人しか増やさない!?

さいたま市は保育園の定員を1年間で752人分の保育園(認可園)を新設するという。現在の待機児童問題にどのくらいのインパクトがあるのだろうか。年齢別に概算してみると、1歳児の定員増は105名分、募集人数にして35名分の増加。これは、希望しながら入園できていない乳児の数(不承諾数)と比べると約20分の1にあたる数字となる。




◆前々回の続き:【定員増=空き定員増】ではない
さいたま市が予算案に合わせ、認可園の定員を1年で752人増やすと発表したことを受け、年齢別の不承諾数のグラフと増員数のグラフを見比べてみたのは前々回の投稿/記事だった。ざっくり言って、7年ほど同じような定員増を繰返すなら、一定程度の効果も見えてくるだろうと書いた。そこで、今回はいただいた指摘なども踏まえ、前々回のこの分析に修正を加えていきたい。

最初に、前々回のグラフの簡略版をもう一度見ていただこう。

 黒い実線は市が提供する平成22年度の不承諾数である。全市で見ると1歳児を頂点に0歳や2歳児で多くの不承諾を出していることが分かる。
 下のオレンジの実践は、推測値だが750人定員増の内訳を示している。一般に認可園の定員を年齢別でみると、0歳児のクラスは少人数の定員にとどまるかゼロ。1歳児クラスと3歳児クラスで定員を増やすという構成になる。750人の定員増とはいっても、おそらく1歳児では105人程度しか定員は増えない。
 前々回には、「不承諾が多い1歳児で、定員増が不承諾数に匹敵しなければ不承諾は失くせない」と考え、毎年750人づつ定員を増やしたとしても、1歳児の定員増が現在(=H22年)の不承諾数を超えるのは7年後ですと書いていたのだった。青い実線は、グラフ中のオレンジの実線で示される750人増の内訳の推測値を単純に7倍した値を結んだグラフである。

 以上のように書いたところ、多く指摘していただいたのは次の二点である。

  • このグラフを見ると、青線で4歳児や5歳児で余剰定員ができてしまうように見える。
  • 1歳児の定員増より1歳児の空き定員増は少なくなる。0歳児クラスからの持ちあがりを考えると1歳児の空き定員増は【「1歳児の定員増」−「0歳児の定員増」】になるはずだ。

◆持ちあがり分と空き定員数

 どちらも、もっともなご指摘である。じっさい募集枠、つまり「空き定員」を考えるとき、持ち上がりの児童がいることを無視するわけにはいかない。入所審査時に大切なのは、定員数ではなく空き定員である。
 認可園ではいったん入園が承諾されると、翌年度以降の審査は、両親が仕事をし続けているかどうか、より正確に言うと、「保育に欠ける」状態が続いているかどうかしか審査されず、通常は持ちあがりで同一園の上のクラスに入ることになる。このため、引っ越しや退職などの事情で退園するケースが多少あったとしても、n歳児クラスの募集数は「n歳児の定員」−「(n-1)歳児の定員」に近いはずである。また、1番目のご指摘も、この持ちあがりの部分が定員増のグラフに反映されていないということから来る欠陥によるものであろう。


◆750人定員増は、1歳児の募集園児数を35人しか増やさない

 そこで、「n歳児の募集数増」=「n歳児の定員増」−「(n-1)歳児の定員増」ということにして、グラフを書き直してみたい。まずは単年度750人の定員増が、年齢別にどの程度の空き定員増につながるかを示すグラフを描いてみると次のようになるだろう。上のピンクが定員増のグラフで、下の赤い実線が空き定員数の増加数である。グラフの右の方、4歳児や5歳児の部分で感じる違和感はなくなった。1歳児の空き定員は、本当にこの水準で良いのだろうか。ゼロ歳で保育園に入った園児が公立・認可園を辞やめることがないという仮定が成り立つなら、やはりこのようにするしかないだろう。引っ越しや転園といったことも多少なりともないわけではないだろう。もし退園率や定着率のような数字が入手できれば、少しはより正確にすることができのだが…。
空き定員数のグラフは定員増のグラフよりずっと下の方に下がってしまうということは、待機問題解消に対する定員増のインパクトをより小さく評価することとに他ならない。もっとも端的なところでいうと、750人定員増とはいっても1歳児の募集園児数をたった35人しか増やさないということになる。

さらに、H22年の不承諾数とこの空き定員増のグラフを重ねてみたのが、冒頭にも示した下のグラフである。(再掲)

 かなり、空き定員増である赤線が下の方になってしまっている。

◆20年継続、就学前人口の約半数で待機解消へ?
 ちなみに、前々回と同様に「不承諾が多い1歳児で、定員増が不承諾数に匹敵しなければ不承諾は失くせない」と考え、750人定員の増加を繰返したとして、平成22年の1歳児の不承諾数に、空き定員増が何年後に上回るかを計算すると、19.8年後。つまり20年間継続してようやく達成できることになる。そして、現在より増やされる認可園の定員増は19.8年の累積で1万4850人。
この数は、現在公立園、認可園、独自認証園を現在利用している園児数の合計よりも多く、既存園・増設園の定員の合計は、さいたま市の就学前人口の半数に匹敵しようかという数字となる。

 さて、ここまでの議論に、まだどこか欠点はないだろうか。まだまだ、私自身、まったく大雑把な議論しかしていないと思っているので、ぜひ、ご指摘をお願いしたい。

大好評…、であろうがなかろうがしばらく続けます!
◆連続シリーズ:保育園定員増の効果はどのくらい?
(3)さいたま市の750人定員増は、1歳児の募集園児数を35人しか増やさない!?(2012-02-15)
(2)待機児童の年齢別の状況は、さいたま市内でも各区でかなりちがうね。(2012-02-08)
(1)さいたま市が認可保育所を752人増:最低7年は続けましょう:不承諾数から考えた(2012-02-05)