雑記帳

私、渋谷次郎が調べたことや考えたことを書き留めておくためのブログです。

お昼寝中の放置にも焦点を!--保育園の死亡事故

「保育園落ちたのは私だ!」のブログで保育園不足をめぐる議論が盛り上がる今年4月中旬、大阪と東京の認可外保育園でお昼寝中の死亡事故のニュースが伝えられました。このようなニュースにでくわすと、私はまず「いったい何時間放置したんだろう?」とチェックすることにしています。
たいていのニュースがまずフォーカスするのは「うつぶせ寝」ですよね。でも、どれだけ放置したのかに着目した方が「何があったか」により接近できると思っています。

大阪市「たんぽぽの国」の記事を例にして読む

大阪市保育園「たんぽぽの国」の事故を伝える毎日新聞の記事の冒頭部分を見ながらいったいどれぐらいの時間放置されていたのかを想像してみましょう。事故の第一報となる記事です。

認可外保育園 昼寝の1歳児死亡…大阪
毎日新聞2016年4月12日


 大阪市淀川区東三国5の認可外保育園「たんぽぽの国」で今月4日、1歳の男児が心肺停止の状態になり、その後死亡していたことがわかった。市が12日、発表した。昼寝中にうつぶせになり窒息したとみられ、大阪府警淀川署は保育園の関係者から事情を聴くなどして、当時の詳しい状況を調べている。
 市によると、男児は4日午後2時40分ごろから保育室の布団で昼寝を始めた。午後3時半ごろ、うつぶせで呼吸をしていないことに保育士が気付き、119番通報。電話で指示を受けながら心臓マッサージをしたが回復せず、搬送先の病院で死亡が確認された。
市や運営会社によると、当時、保育室には男児を含む1〜3歳の11人がおり、保育士と職員の計2人が勤務。男児だけが昼寝をし、他の園児は同じ部屋でおやつを食べていたという。(以下略)

■チェック1:異常発見前の様子を誰が何時に確認しているか?

この新聞記事をもとに放置時間を考えてみることにしましょう。
まずは異常がなかったのはいつまでと確認されているかを見てみましょう。記事には「午後2時40分ごろから保育室の布団で昼寝を始めた」とあるからこの辺なんでしょうか。

ただ、良く読むとこの一文はなんだかとってもぼやけた表現ですよね。子どもが眼をつぶっていたのかどうかもわかりません。誰が、この子のどんな様子を見たのかぜんぜん読み取れません。

以下想像してみればですが、
スタッフは2人とも近寄ったり顔をのぞき込んだりはしてなさそう。ということは遠眼から見ただけなのかな。遠眼から見ているのにどうして「異常がない」と思ったんだろう。泣いてた? 布団がモゾモゾしてたかな…。

スタッフの誰かが、死亡する前、最後にこの子の顔をはっきりと見たのは「2時40分ごろ」より前のことになりそうですよね。わざわざ曖昧な報告を出すくらいですから、それは遡ること5分や10分のことではない。30分、あるいは1時間、ひょっとしたらみんなでお昼寝になる昼食後のみだっておかしくありません。

■チェック2:異常は誰がいつ発見したのか

以上のように、放置が始まるタイミングを想像してみたわけですが、次にいつまで放置されていたかを読み取って見たいと思います。

「午後3時半ごろ、うつぶせで呼吸をしていないことに保育士が気付き、119番通報。」
これもまた、新聞記事らしからぬ曖昧さを残した記述になっています。3時半というのは、異常に気付いた時刻なのか、それとも119番通報の記録上の時間なのか、はっきりしません。
通報の時刻は、すぐに調査で裏がとれるものだから冷静な人は嘘は付かないでしょう。ただそれにしてはあまりにザックリと3時半ですので、通報記録の時刻じゃあなさそうに見えます。やっぱり気付いた時刻が「3時半」ごろだったんでしょうか。じゃあ、通報は何時何分だったんだろう。

通常、両者はほぼ同時になるハズですが、保育園の死亡事故の歴史上、ある程度時間がかかってしまうことも少なくありません。そして、そのズレはなるべく短くして報告したいというのが当事者の気持ちにはあるでしょう。

それに心臓マッサージも気になります。「電話で指示を受けながら心臓マッサージをしたが回復せず」とありますが、逆に言えば、「通報し指示を受ける前に心臓マッサージはしていなかった」と読むことができるでしょう。とすると、なぜ心臓マッサージをすぐに始めなかったのか。気が動転しすぎてしまったのか、あるいはすでに子どもの状態がそういう気持ちにさせない状態だったのか。

■最低でも50分、最長なら2時間半
今回取り上げた毎日新聞の記事にはありませんが、産経など他紙の中には、2時40分と3時半から単純に計算して「最低でも50分放置」と表現しているものがあります。記者のなかにも放置時間を重く観て下さる方がおられるようです。
他方、ありうる最長の放置時間は、通常のお昼寝時間の始まりから3時半ごろまでだでしょう。じつに2時間半以上であったとしてもおかしくない。そういう報告しか現段階では上がっていないということになるのでしょう。

■おわりに
私が保育に関心をもつようになってから10年以上経ちますが、保育園のお昼寝中に死亡したニュースに何度も出会いました。毎回じっくり見てきました。しかし、15分前には普通の顔をしていた子どもの呼吸が突然止まってしまい、手を尽くしたけれどもダメだったというケースは一度も聞いたことがありません。少なくとも1時間以上の放置が予想できるものばかりです。

保育園に通う児童数全体から見れば死亡数は小さな数字だという議論もあります。しかし、これまであった死亡事故の多くはやはり防げるものだったのではないかという気がするのです。そうした議論の仕方は現状に合わないと思います。致しかたないと捉えるもっと踏み込んで言えば、お昼寝中に長時間顔色や息をチェックしない放置は、それだけで死亡事故において過失として認定すべき要素ではないのかとさえ思うようになりました。

  • いったい何時間放置したのだろう?
  • なぜそんなに長時間放置してしまったのだろう?

 ぜひ、みなさんにはそう考えながらニュースを読んでいただきたいと思います。そして報道の方には「放置時間」にもっと着目した取材や報道を心がけていただきたいと思います。 行政の方には、曖昧な報告は退けて放置時間をしっかりと捕捉し統計化していただきたいのです。